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芝国際高等学校第1回卒業証書授与式式辞
2026年3月14日に行われた第1回卒業式では、校長から卒業生に以下のようなメッセージが伝えられました。
厳しい冬の寒さが過ぎ、確かな春の息吹を感じる今日の佳き日に、多数のご来賓、保護者の皆様のご臨席を賜り、芝国際高等学校第1回卒業証書授与式を挙行できますことは、大きな喜びであり、心から感謝申し上げます。
本日、本校における3年間の課程を修了し、卒業する245名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、各賞受賞の皆さん、よく頑張りました。心よりお祝い申し上げます。
この喜びは、皆さんの努力の賜物であることは言うまでもありませんが、皆さんを支え続けてくださったご家族や周囲の方々のお力添えがあったことを決して忘れずに、改めて感謝の気持ちを自分の言葉で伝えてください。
3年前、皆さんの目にこの学校はどう映っていたでしょうか。新設校を共に創っていく期待と、前例のない道を歩む不安が交錯していたことと思います。走り出しの時期ゆえに至らぬ点も多く、皆さんからは多くの助言をいただきました。希望がすぐに形にならず、歯がゆい思いをさせたこともあったでしょう。後輩たちへ引き継ぐべき課題の大きさを、私たちも改めて噛み締めています。それでも、この卒業証書には、一期生として葛藤しながらも挑戦を続け、この芝国際の礎をしっかりと築いてくださった皆さんの誇りが刻まれています。
挑戦の反対は、失敗ではなく「何もしないこと」です。2002年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所のサラリーマン・エンジニアである田中耕一さんは、タンパク質の質量分析という難題に挑んでいました。科学の研究者は、たとえ1万回の失敗を重ねてもそれは失敗ではなく、「1万通りの上手くいかない方法を見つけることに成功した」と考え、1万1回目に挑戦すると言われます。彼もまた、失敗という名の成功を繰り返していました。
ある日、彼は本来アセトンを使うべきところを、誤ってグリセリンを混ぜてしまいました。研究者としてはうっかりミスでは済まされない事態です。しかし彼は、容器の表面に張った膜を見て「これは何だろう、もったいないから一応試してみよう」とレーザー測定器にかけました。すると、グリセリンがクッションの役割を果たし、不可能とされていた測定に成功したのです。
「失敗したらどうしよう」と思うのは、皆さんが真剣だからです。しかし、失敗は傷ではありません。それは「この道は違った」という貴重なデータです。データが増えるほど成功に近づきます。失敗は突破への階段の一段に過ぎません。挑戦とは、そうした経験を積み重ねる勇気のことです。
この3年間、「もう無理だ」と壁に突き当たったこともあったでしょう。しかし、その壁に向き合ったときこそ、皆さんは成長したと言えるのです。壁を力任せに壊すだけが突破ではありません。誰かに助けを求め、別の道を探し、時間をかけて乗り越えても良いのです。そうして越えた壁は、やがて皆さんの背後で「揺るぎない自信」という土台になります。壁が大きいほど、その先の景色は広がり、社会への貢献へとつながっていくのです。
先日、iPS細胞を用いた再生医療製品が世界で初めて承認されました。スタートアップ企業が申請した、重症の心不全患者の心臓に貼る心筋細胞シートと、大手製薬会社が申請した、パーキンソン病患者の脳に移植する神経細胞です。山中伸弥教授がiPS細胞を発表してから20年、ノーベル生理学・医学賞を受賞してから14年。ここで注目すべきことが二つあります。
一つは、山中教授が牽引し、多様な組織が集まる「共創の場」が、実用化を加速させたことです。2024年に大阪で開業した「中之島クロス」には、大学、医療機関、企業、スタートアップ、行政が集まり、研究の芽を迅速に育てる仕組みが整っていました。
もう一つは、特許の考え方です。山中教授は、一企業による技術の独占を防ぐために特許を取得し、研究者が広く利用できる仕組みを整えました。利益の独占ではなく、適正な使用料を新たな研究へ還元する形を選んだのです。
これらはいずれも、自らの利益や執念のためではなく、人々のWellbeingを守ることを目的とした行動です。山中教授も若い頃は手術が苦手で「ジャマナカ」と揶揄される挫折を味わい、研究者に転じた後も、何度も辞めようと思ったことがあったということです。しかし、「万能細胞など作れるわけがない」という常識に抗い、途方もない試行錯誤の末に、世界を変える発見を成し遂げたのです。
VUCAの時代に必要なもの。それは、新しい扉を叩く「好奇心」、折れない心で挑み続ける「持続性」、必ずできると信じる「楽観性」、予期せぬ事態を受け入れる「柔軟性」、そして未知の世界へ飛び込む「冒険心」に他なりません。これらは、多くの研究者、スタートアップの先駆者たちが実践してきた「計画的偶発性」を引き寄せるための鍵です。
そしてこれから先、皆さんは何度も選択を迫られます。迷った時は、次の言葉を思い出してください。「主体的に『挑戦』しようとしたか?」「仲間と共に『行動』しているか?」「『突破』を諦めていないか?」 そして、「その先に『貢献』はあるか?」
卒業は、新たな世界への出発点です。どんな道を選んだとしても、皆さんらしく、自分の信じる道をしっかりと歩んでください。皆さんの歩む道の先に、今日この場所で始まった物語がどのように続いていくかを、私たちは楽しみにしています。
最後になりましたが、保護者の皆様、改めてお子様のご卒業を心よりお祝い申し上げます。本校の教育理念にご賛同いただき、大切なお子様をお預けいただきましたこと、今日まで温かいご協力とご支援を賜りましたことに、改めて深く感謝申し上げます。ご卒業後も末永く本学園の将来を見守り、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。
以上、芝国際高等学校の教職員を代表し、皆さん一人ひとりの新たなる旅立ちを祝い、益々のご活躍を心から祈念して、式辞といたします。
2026年3月14日 芝国際高等学校 校長 吉野 明